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中野 周一・根來 康皓
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国宝級の才能と共に世界を魅了する音楽を届ける

中野 周一・根來 康皓

株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
(中野氏・写真左)第3レーベルグループ ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズ 第一制作部 兼 onenation制作部 チーフ
(根來氏・写真右)第3レーベルグループ onenation制作部 兼 EPICレコードジャパン 第二制作部 チーフ

MUSIC AWARDS JAPAN 2025最優秀楽曲賞 受賞

作品

Bling-Bang-Bang-Born

アーティスト

Creepy Nuts

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」_ジャケット写真

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音楽の売り方、宣伝の在り方がめまぐるしく変わっていく2020年代の音楽シーン。ストリーミング全盛の時代にあっても、変わらず人の心を動かすヒットを生み出し続ける人たちがいる。時代とともに音楽の生み出し方は変わっていくのか、スタッフたちの愚直な思いは変わらないのか──アーティストをヒットに結びつける"今"のHit Makersの声に耳を傾ける新連載の第2回。

今回は、MUSIC AWARDS JAPAN 2025で最優秀楽曲賞、最優秀ジャパニーズソング賞、最優秀国内ヒップホップ/ラップ楽曲賞、最優秀国内ヒップホップ/ラップアーティスト賞を含む9部門受賞という快挙を成し遂げたCreepy NutsのA&R・中野周一氏と制作ディレクター・根來康皓氏にお話を伺った。「チーム全員がデジタルマーケター」という新時代の体制で、世界に羽ばたくヒップホップを支える二氏が語る、グローバル時代の音楽制作とプロモーション戦略とは。

「チーム全員がデジタルマーケター」
──ストリーミング時代の体制

──まずは、おふたりの役割分担について教えてください。

中野:私は主に宣伝周りを担当しています。楽曲制作は根來がメンバーと一緒に進める中で、我々はどういったプロモーションをやっていくか、どういう番組に出ていくか、リリースのタイミング、ミュージックビデオやコンテンツをどのタイミングで出していくかといったことを、宣伝チームとともにプランニングしていく戦略担当のような役割ですね。音楽業界の関係者との交渉も含めて、メンバーが純粋に創作に集中できる環境を整えるのが私たちの仕事です。

根來:ぼくはスタジオでのレコーディングがメインですが、SNS周りは全員野球的にスタッフが一丸となってプロモーションを考えています。Creepy Nutsの場合、楽曲制作はメンバーが自分たちでやっているので、エンジニアのディレクションやミックス、マスタリングエンジニアとの調整、そして完成した楽曲をいかに魅力的に届けるかという部分でのサポートが多いですね。

──Creepy Nutsに関わる「チームCreepy」は何人体制なのでしょうか?

根來:レーベルで言うと5名、事務所は9名くらいでしょうか。しっかりと話し合いができつつも機動力のあるメンバー体制です。

中野:この1、2年で大きくスタッフが変わってきているので、チーム全員で色々なことを決めながら進めているのが現状ですね。固定的な役割分担というよりも、その時々で最適な人がイニシアチヴを取って動いているような状況です。

──現在におけるプロモーションの軸となっているSNSに関しては「全員野球」とおっしゃいましたが、具体的にはどのように運営されているのでしょうか?

根來:SNSアルゴリズムはプラットフォームによって異なり、何が上がってくるかも人によって違う現状を踏まえて、今何が拡散されるのか、どういうコンテンツが刺さるのかを話し合って、デジタルチームと連携しています。一人ひとりが異なる感覚を持ち寄ることで、より多角的な視点でプロモーションを考えられていると思います。

中野:どのアーティストチームも今はSNS・WEB中心にどう届けていくかを考えざるを得ない状況ですが、比較的そういう目線が揃っているスタッフが多いかもしれません。Creepy Nutsの場合は、メンバーも含めてチーム全体でその意識を共有できているのが強みだと感じています。

SML中野氏・根來氏_1

「音楽という文化の素晴らしさとロマンを改めて感じた」
──MAJ 2025で9部門受賞

──MUSIC AWARDS JAPAN 2025では9部門受賞という記録的な成果を収めましたが、授賞式当日の会場でのお気持ちはいかがでしたか?

中野:正直に言うと、ライヴパフォーマンスの準備でかなりバタバタしていたので、どちらかというと受賞の喜びを噛み締めるよりも「本番を成功させなければ」という気持ちの方が強かったかもしれません。

根來:トロフィーがどんどん増えていく光景が本当に印象的でしたね。ぼくはヒップホップという音楽ジャンルがすごく好きで、日本のアワードでヒップホップがこれだけ評価されるというのが心から嬉しかったです。ニューヨークで52年ぐらい前に生まれた音楽が太平洋を渡って日本に伝わり、それがさらに日本で進化して評価を受けるって、音楽という文化の素晴らしさとロマンを改めて感じさせてもらいました。

──メンバーのおふたりはこの受賞をどのように受け止めていらっしゃいましたか?

中野:事あるごとに「実感ないですね」と言っています(笑)。これは本当に彼ららしいというか、誰ひとりとして100%狙って計算してやっていたわけではない状態で、いろんな要素が絡み合って生まれた結果がこういう風に広く届いているというのが、スタッフも含め、当人たちにとっても不思議なことなんだと思います。そこにこそ、多くの人を惹きつけるエンターテイメントの魅力があるのかもしれません。

根來:本人たちは本当にただただ良い曲を作って、自分たちが好きなもの、かっこいいと思えるものを作ろうという純粋な気持ちで制作していた楽曲が評価されたという受け止め方をしているのかなと思います。結果を狙って作るのではなく、自分たちの信念に従って作ったものが多くの人に届いた、という感覚なのでしょうね。

MAJ2025授賞式_Creepy Nuts

©CEIPA /MUSIC AWARDS JAPAN2025

「これは世にないものができた」
──純度の高い音楽制作

──DJ松永さん、R-指定さんはよく、「ないものを生み出すことに興味がある」とおっしゃっていますが、これはどういう意味なのでしょうか?

中野:一聴した時に「これは○○に似てるね」みたいなことがほぼない状態を作るという意味で話しているんだと思います。既存の枠組みに当てはめられないものを作ることへの強いこだわりがあります。特に昨年のリリース時に、メンバーおふたりが「これは世にないものができた」と確固たる手応えを持てたことが大きかったですね。

──「俺はもう1人の貴方」という歌詞が印象的な「オトノケ」が、その手応えがあった楽曲のひとつでしょうか?

中野:そうです。「Bling-Bang-Bang-Born」、「二度寝」の大ヒットから半年ほど経って出る次のシングルという重要な位置づけでもあったので、スタッフとしても非常に大切なものと捉えていました。ちょうどスタッフ体制が激動していた時期でもあったので、個人的にも印象深いタイトルになっています。

根來:ぼくは「オトノケ」の制作途中から関わらせてもらいましたが、"バケモンみたいな曲が出てきたな"というのが率直な感想でした。歌詞の内容もタイアップのアニメ『ダンダダン』をしっかりと深掘りされているし、普段メンバーと制作させてもらっている中で、とにかく思考の深さに毎回驚かされるのですが、この楽曲は特にそう感じています。

SML中野氏

「奇跡的なパズルのピースが組み合わさった」
──「Bling-Bang-Bang-Born」のグローバルヒット

──「Bling-Bang-Bang-Born」の世界的なヒットについて振り返っていただけますか?

中野:本当に奇跡的なパズルのピースが組み合わさった出来事でした。まず『マッシュル-MASHLE-』という人気漫画があって、それがアニメ化され、オープニングテーマのオファーをいただいた。メンバーが作品の世界観にシンパシーを感じて、特に"魔法を使えない主人公が生身一本でのし上がっていく"というストーリーと、まさにヒップホップカルチャーの根底にある精神性がシンクロしたんです。

その共振から生まれた楽曲を、アニメーターさんが素晴らしい映像で表現してくださり、世に出した時にグローバルなファンの皆さんが日本国内よりも先に反応してくれた。この反響の種火を各チームで更に広げていくという一つひとつのピースが本当に奇跡的にハマって、想像を超えた広がりを見せたという感じです。

──それを受けて海外展開の体制も変わったのでしょうか?

中野:はい。アメリカのソニーミュージックの中にアリスタ・レコードというレーベルがあるのですが、「Bling-Bang-Bang-Born」のタイミングから本格的に協業するようになりました。アリスタは過去にも多くのグローバルヒットを手がけているレーベルで、世界、特に北米に対するプロモーション戦略を一緒に考えて実行してくれるようになった。これは他のアーティストではなかなか得られない大きな支援だったと思います。

──グローバル展開を意識した配信戦略で、特に工夫されていることはありますか?

中野:タイアップ楽曲をいつリリースするのがベストかは、国内外の状況を見ながらすごく慎重に考えています。グローバルで聴かれる状況になってきたこともあって、楽曲タイトルをローマ字表記にすることや、タイアップ作品のタイトルをサブスクリプション・サービス上でも適切に表示できるようにすることで、世界中どこからでも検索をかけた時に見つけやすくする工夫をしています。

根來:こういった細かいタイトルの付け方についても、二人に相談しています。本当にセルフプロデュース能力が高くて、音楽制作だけでなくプロモーション戦略まで含めて考えてくれる。スタッフとしてはとても心強いですね。

SML中野氏・根來氏_2

「国宝を見てきた」
──レコーディングで感じる才能

──Creepy Nutsのレコーディングで、他のアーティストにはない特徴的なことはありますか?

根來:初めて彼らのレコーディングに立ち会った時のことを今でもよく覚えているんですが、帰宅して妻に"国宝を見てきた"と興奮しながら報告したんです(笑)。それくらい圧倒的でした。この才能は本当に国宝級だなと、素直にそう感じました。レコーディングは毎回楽しみで、もし可能なら音楽ファンの皆さんに現場を体感してほしいぐらい贅沢な時間なんです。

彼らの凄さは、まずセルフプロデュース能力が非常に高いことです。そのうえで、エンジニアさんや我々スタッフが「ここ、こういう風にしてみてはどうでしょうか?」と提案しても、一切嫌な顔をせずに「うん、やってみましょうか」という姿勢で試してくれる。良いものを作るという執念と、同時に周囲の意見を取り入れる柔軟性を併せ持っているんです。

長年一緒に楽曲制作をしてくださっているエンジニアの高根(晋作)さんへのリスペクトもしっかりと持ちながら、自分たちのコアとなる部分はブレずに持っている。その絶妙なバランスが、一番いい形でハマっているという印象です。

──メンバーおふたり同士は、どのように制作を進めているのでしょうか。

根來:興味深いのは、おふたりの制作過程でのやり取りです。グループLINEにラフミックスが共有されると、Rさん、松永さんそれぞれから「やべぇ半端ない」とか最速でリアクションが返って来るんです。それを見ているだけでも、お互いに対する刺激と研鑽の様子が伝わってきます。

ぼくらが見えるグループLINEでのやり取りもすごいんですが、おふたりのLINEでもきっとさらなるやり取りがあるんだろうなと想像できます。そこでも音楽的なラリーが続いているんだろうなと。

中野:彼らはトラックを作って、さらにそのトラックを磨いて、磨いたトラックにもう一回ラップを載せて...みたいなことを延々とやるんです。本当に締め切りギリギリのところまで。そんなふうにふたりでその研鑽を続けていることで、楽曲がどんどん研ぎ澄まされていく。アルバムの中でも、デモの段階とは全くアレンジや世界観が変わった楽曲もあったりします。

とにかくおふたりの音楽に対する純度がすごく高いんです。それをずっとやり続けていて、ここ数年は本当に時間をかけてできるようになったのが、今の状況を生み出している要因だと思います。

──お話を聞いていると、大きな成功を収めてもメンバーおふたりの基本的なスタンスは全く変わっていないような印象を受けます。

中野:そうですね。今年は東京ドーム公演も開催しましたが、メンバーおふたりの反応を見ていると、もちろん大きな会場でできた感慨深さはあるものの、そこに対してものすごく特別な感情を抱いているわけではないんです。常に一歩一歩、目の前のことに誠実に取り組むという姿勢を貫いている。外から見ている方が思うほどドラマチックに捉えているわけではなく、すごく冷静だと思いますね。

根來:東京ドーム公演が終わった後も、打ち上げをするでもなく、普通に「お疲れ様でした」で解散でした(笑)。本当に淡々としていて、どんな状況になっても自分たちのスタイルを変えない。それが彼らの魅力なんだと思います。

SML根來氏.

「世界で勝負できるアーティストだと確信している」
──今後の展望

──配信が主流になった現在でも、Creepy Nutsはアルバムというフォーマットを大切にされている印象がありますが、この点についてはいかがでしょうか?

根來:音楽というのは、突き詰めれば空気の振動で、本来は目に見えないものです。それを視覚化し、より豊かに表現するためのアートワーク、活字になった歌詞、ファッション性、アート性なども全て含めて彼らの作品だと考えています。単に音楽を聴くということを超えて、アートワークも含めた総合的な世界観を体験してもらうことが重要だと思うんです。

中野:ヒップホップは特に、音楽だけでなくアートワークやカルチャー全体も含めてひとつの作品として捉えてもらうことが大切な文化です。Creepy Nutsの場合、ひとつのアルバムがそのときどきの彼らの状況や心境を記録したドキュメントのような役割も果たしているんです。個々の楽曲のヒットも素晴らしいですが、アルバム全体を通して聴いた時の面白さや深さも格別なものがあります。ぜひ多くの方にその体験をしていただきたいですね。

──最後に今後の展望について、お聞かせください。

中野:まずは何より、すごく純度の高い音楽を作ってくださるメンバーおふたりの創作環境を守ることが最重要です。彼らがストレスなく、納得のいく音楽制作に集中できる状況を維持すること。そして、完成した作品を純度を保ったまま、できる限り広く、より多くの人に届けられるように、我々スタッフも知識と経験を積み重ねて、様々な分野の専門家の力も借りながら活動していきたいと思います。

根來:日本発の音楽として、海外でもアニメファンという枠を超えて、より幅広い一般の方々にも届くような楽曲作りや戦略を追求していきたいですね。もちろん、そのプロセスでアニメの持つ文化的な力も最大限に活用しながら、世界に通用するかっこいい楽曲をどんどん作っていけたらと思います。Creepy Nutsは本当に世界で勝負できるアーティストだと確信しています。

中野氏と根來氏が語る制作現場では、メンバーおふたりの純度の高いクリエイティビティを最大限に活かすチーム体制と、グローバル時代に対応した柔軟な戦略がみごとに融合している。グループLINEで交わされる楽曲への熱い反応や、個人間でのさらなる音楽的探求など、デジタルネイティブ世代ならではのコミュニケーションツールを駆使した創作プロセスも印象的だ。奇跡的なパズルによって生まれたヒットを、いかに持続可能な成功に繋げていくか──その答えは、音楽の純度を守り続け、アーティストが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整えることにあるのかもしれない。

(TEXT:油納将志 PHOTO:島田香 PRODUCE:本根誠)

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Hit Makersが選ぶ原点の5曲

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by 中野 周一

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PROFILE

SML中野氏・根來氏_プロフィール

中野周一/なかの・しゅういち(写真左)

徳島県出身。2005年ソニーミュージックグループ入社。ミュージック・オン・ティーヴィにて放送事業に携わったのち、2012年ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズへ異動。様々なアーティストのプロモーションに携わり、2016年より同レーベル制作部にてA&R・制作業務を行う。2024年「Bling-Bang-Bang-Born」リリース時よりCreepy Nutsを担当。

 

根來康皓/ねごろ・やすあき(写真右)

滋賀県出身。名古屋音楽大学大学院作曲学部卒業。在学中に作曲・トラックメイカーとして携わったnobodyknows+ソロ曲をavex traxよりリリース。2016年よりソニー・ミュージックレーベルズにて様々なアーティストのA&R、ディレクターを務め、Tani Yuuki「W/X/Y」などの音源制作、nobodyknows+「ココロオドル」、SIX LOUNGE「リカ」のSNSプロモーションを行う。2024年よりCreepy Nutsを担当。

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